子供でもわかる入試問題
こんなニュースがありました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150129-00000578-san-cul
「八正道」の問題は完全に倫理の問題ですが、倫理の問題としては簡単すぎるので、「入試に関係ない科目も手を抜かずに真面目に勉強する生徒が欲しい」という意図を感じることができる、と、贔屓目には言えますが、あとはちょっとアレですね。
実は恥ずかしながら、某校の入試問題を一度作問したことがあります。今見返すと本当にダメな問題で、「つまんねぇ問題作ったなぁ」と恥ずかしくなるのですが、そのときも今も、実現できているかどうかはともかく、常に心に置いていることがあります。
それは「小学生でも解ける問題」ということです。
小学生には専門的な知識は当然ありません。にもかかわらず、「和同開珎」だけでなく、「蟻鼻銭」まで叩き込まれて、入試に臨みます。数学では関数という便利な道具も与えられず、塾ではつるかめ算や流水算など散々叩き込まれて「その学校の入試にだけ対応できる」頭に作り替えられて受験します。親も子供も塾もヒステリックで完全におかしな精神状態になっている場合もあります。そして一番悲しいのがそこで子供が完全に「燃え尽き」て、「小学校の頃は俺は偉かった」と中学にして過去の栄光にすがる悲しすぎる子供になってしまうことです。超難関校と言われる学校にも、若くして「お受験ドランカー」になった被害者がいっぱいいます。でも、そうではない本当に思考能力の高い生徒を学校側も選びたいわけですから、そのあたりの思考力を問う問題を本当は作りたいわけです。
国語、数学、理科はもちろん、社会においても事情は同様です。ただ知識や、与えられた枠組みだけを覚えているのでは絶対に解けない、総合力を問われるような問題が一番よい問題です。つまり基本的にはすべての科目で「論理性」が求められ、それを軸に、科目横断的な知識や、日常生活で得られる知識を駆使すれば小学生でも解ける問題。それが本当に優秀な生徒とそうでない生徒を見極める問題のはずです。逆に言えば論理性もなく、参考書から得た知識しかないなら、大学生でも解けない問題が「よい問題」であって、学校にとっても子供にとっても幸せな入試問題だと思います。
しかし最近は3科目受験といって社会はなくてもいいという受験スタイルが関西では流行しています。「社会は暗記だから今は別に構わない」ということです。悲しいかな、社会の置かれた悲しい現状です。中学受験でこの扱いで、大学受験でこんな重箱の隅をつつく「暗記試験」。実に悲しいです。
「歴史は暗記科目」。それは一面では事実なのですが、本来はひとつの歴史を原因と結果の連鎖で見ていく論理的な思考のもとに、各事象を置いていく作業であるべきです。線を引いてから点に注目し、点と点の意味合いをもう一度理解していく、そういう「物語」を編んでいく作業であるはずです。地理もまた同様です。その場所にそれが存在する、ということの意味合いを、地球全体の条件から理解して、自分の中で地図を描いていく作業が地理学のはずです。さらに言えば、地理と歴史は別の科目ではなく、時間と空間という人間の根本的な二つの形式を使い、人間の体験できる範囲を個人から全人類へと広げていく創造的な営みです。えらい大学の先生がそんなことがわからないはずがないのですが・・・。
実は昔、生徒を使って一度実験をしてみたことがあります。私の上のような理想の問題を作るために、実際に子供に問題を作らせてみたらどうか?というものです。中学1年生の子供たちに、自分で自分の学校の入試問題を作ってみよう、という試みをしてみました。すると、びっくりするほど素晴らしい問題がたくさんできました。代表的なものは、
「大英帝国が完成するまでに征服した国の国旗を全て選べ。」
という選択問題です。オトナのみなさんは、わかりますか?
大英帝国はわかるのです。コレです。ユニオンジャックです。
ユニオンジャックがこれまで征服してきた国々のすべての国旗を取り入れて現在の形になった、ということは授業で教えていましたので、あとはそれを分解するだけです。
おそらくその分解の作業は幼稚園児でもできます。しかし、この問題をいきなりたずねても、ほとんどの高校生は解けないでしょう。知識なんて少しでいいのです。現在のイギリス国旗なんてオシャレな女の子の服装のどこかに入っているでしょう。戦闘機マニアの男の子でも知っているでしょう。海外旅行にあこがれる英語の得意な女の子でもわかるでしょう。あとは「征服した国々の国旗のデザインをすべて取り入れてきたんだよ」と教師が教えるだけでいいのです。
こんなふうに、数学や理科の知識がないと解けない社会や、英語でリード文が書かれた歴史の問題など、のちに私が散々テストで使うようになったネタはすべて中学1年生からいただきました。本当に彼らの自由な思考には驚かされました。「自分たちの後輩は、自分たちで選ぶ」そういう試験も、案外面白いかもしれません。