奈良はやればできる町(YDM)第7回「そば道」
「さいきん、YDMに頼りすぎじゃないの?」
そういうご指摘、あると思います!
しかし、一番最初に触れておきたかったのに、最近なかなかいけなかった大事なお店をどうしても紹介しておきたいのです。慈眼寺のかなりの近く。船橋通り商店街の手前、沢井病院すぐ近くに、そのお店はあります。
唐突ですが、お聞きします。
そば屋って、難しくないですか?色々と。
そば屋は難しいですよ。何が難しいって、そばって「そば道」とでもいうべき、なんかめんどくさい世界でしょ。以下、勝手な思い込みで「そば屋あるある」行きます。
・値段が高い
・オヤジが無愛想
・客もうるさそう
・食べ方にも色々うるさそう
・ただのそば好きが高じてそば屋やってそう
・正直、腹一杯にならない
コレ、ほぼ該当するんじゃないですか?そもそも接客業だという意識が薄いジャンルだと思うんですよ。私、コレにそっくりな業界知ってます。自転車です。
本当に似てます。と、いうか、自転車の方がひどいですけど。なんなんですかね。店も客も互いに自己満足を突っ走ってるというこのジャンル。他にあんまりない気がします。営業努力をするお店をちょっとバカにするというか、単にコミュニケーション苦手というか。でも、こういう業界って、その店長の自己満足が自分の趣味に合えば、めちゃくちゃハマっちゃうんですよね。要はこだわりの世界です。そのこだわりが分かるか分からないか。分からない奴は来なくていいし、分かる奴には愛想振りまく必要もない。
そば屋は飲食業界のなかではかなり孤高の存在です。うどんが「安くてうまくて腹いっぱい」の世界なのに対し、そばは独特です。「コシ!のどごし!キレ!えーと、あとは・・・そば湯!」みたいな。麺のゆで汁飲ませる店とか他で考えられないですよね。あと、食べる前の突き出し的なものからお茶まで全部そばとかありますよね。「腹一杯にしたいのではない。そばを食べたいだけだ!」とでも言うかの如く、そば一色です。自転車屋と一緒です。「どこかへ行くために自転車に乗るのではない。自転車に乗ることがゴールだ!」正直、「外側」にいる人からすれば完全におかしい人たちなんですが。
だから客も基本おかしい。おいしいもの好き、じゃなく、そば好きなんです。もう、求道者。そば屋の客みんな海原雄山なんですよ。で、店主も海原雄山。海原雄山しかいない空間。怖い。怖いですよ。なんなんスかソレ。
で、そういう自分がそば好きか?っていうと、「あんまりそばの良さとかわかんない。正直、うどん派」というのが本音です。なんか関東の知ったかぶりのおっさんが気難しい顔して食べてるイメージです。(関東の人ごめんなさい)この時点で関西人には壁がある。そもそもそば食っても店ごとの違いとかほとんど分からない。腹減るだけ。そば湯?ソレ、料理?というのが本音でした。でも、分かりたい!知ったかぶりたい!難しい顔して食べたい!コレも本音でした。
そしてその店があらわれました。自宅から徒歩5分。勝手知ったる町に突然その店ができました。私は「そば屋」に対する上記の苦手意識を持ったまま、それでもいつか出会える「マイそば道」を求めて、その店に入りました。それが「そば処 和」さんです。紹介までが長ッ!
まずこだわりポイント。ざる大盛りの場合、三種類のそばから、好きなものを二種類選んで食べられます。「田舎そば」「常陸秋そば」「三日月町そば」です。色々説明が書いてあるのですが、そばビギナーなのであんまり分かりません。でもどれも美味しいのは間違いないです!個人的には「常陸からの三日月」が黄金パターンです。
常陸は白っぽいお蕎麦でそこそこコシもあり、やや太い気がします。田舎よりは細いですが。キュキュッとした歯ごたえがありつつ、そばの香りがふんわり口に広がります。キレがいいです。
三日月は半透明の黒っぽいおそばでさらにツルツルっとしてます。細いけどコシはバッチリあります。そば好きに怒られるかもしれませんが、韓国冷麺に心なしか近い。常陸でまずお腹を満たし、三日月で名残を惜しみます。どちらもキレがよくコシがありいわゆるそばのイメージとちょっと違う。もっとボソボソした粉っぽいものを想像しがちです。今まで私の出会ったそばがダメだっただけかもしれませんが。
なんの必然性もありませんが、無理やり自転車に喩えるとここのそばはカーボンというよりは高級クロモリです。細身で反応はもちろんいいのですが、そこに一瞬の溜めというか、独特のリズムがある。でもどんくさくない。安いクロモリはどんくさいんです。イラっとする。話の合いの手が遅い気がします。高いクロモリはそのへん絶妙なタイミングでちょっとだけかぶせ気味で入れてくる。安いのも高いのも、クロモリは総じて「対話ができるフレーム」だと思います。カーボンだとそうはいかない。勝手に先に連れて行かれるイメージです。こっちはお構いなし。
いいクロモリはそのへんちょっと合わせてくれる。なのに走り出すとぐんぐんペースが上がる。ちょうど自分の想定してるより半歩くらい先にスっと伸びる。乗ってると勝手に笑顔が出てしまう。なにこれ?めっちゃ走るやん!と。ここのそばを食べると試乗で乗ったカザーティのリネアオロ思い出します。クロモリなのに踏むと妙な感じでススッと進む。 その妙な感じでちょっとにやけてしまう。アレは不思議です。
私はつい、聞きかじったあの「そばの食べ方」をココで実践してしまいました。
1.そばつゆはそばの3分の1だけつける
2.音を立てる
3.ほとんど噛まない
今までコレ実践しても何がおいしいのかわかりませんでした。でも、ここのそばでコレをやると実にうまい。慢性鼻炎の私の鼻に急にそば列車が走り抜けた。アレはびっくりしました。「え?なに?」本当にそんな感じ。食べた、じゃないですね。アレは。「そばが通り抜けた」。それが実に心地いい。ちょっと笑ってしまったんですよ。ニヤニヤと。なんて気持ち悪い!まさに自転車と同じです。あとはもう完全に何度もそのそばレースをするだけです。ズルズルッ!シャクシャク!ツルッ!です。何言ってんだ俺。
そしてそばつゆが実に深い。そばの味が分からないなりに、色々なお店には行ってるんです。ただ濃くすりゃいいと思ってる人もいます。でも私にはここがベストですねぇ。深くて、豊かで、クッキリした輪郭がありますけど、残らない。そば湯を入れる前につゆだけ食べてもおいしい。逆にそばだけも食べてみました。これも捨てがたいんですよ。
そして最後のそば湯です。コレなかったら満腹にならないので、あとで何か食べないといけなくなります。そば湯も込みで、ちょうど腹八分。絶妙のバランスです。なんで湯を飲んだだけで腹がおさまるのか、不思議です。最後のそば湯が名残惜しい。ああ、もう食事の終わりなのです。
価格はざるそば800円。大盛りは1100円。毎日のランチにしたら正直ちょっと高いです。毎日は無理。週イチはちょっと厳しいかな。月イチじゃあ寂しいな。そば湯まで行っても満腹というわけにはいかないですしね。普段は立ち食いそばにして、たまに仕事頑張ったら食べたいですね。そんな感じ。ですが食べたら普通の食事とは少し違う体験ができます。先日、改めてあそこでそば食べて思ったんですよ。やっぱりそばはほかと違うって。「食事」ではない気がします。「そば」という独自のジャンルです。ざるそばに関してだけはそう思います。なんか急に知ったかぶって海原雄山の仲間入りしやがって腹立つと思いますが、以前ここでそば食べてて、向かいに座ったおばあさんに「若いのにここの味がわかるの。わかってるわね。」と言われたので、わかってることにします!実はもう若くないし、ホントは家が近いから発見したんですけどね!