慈眼寺 副住職ブログ

君は薔薇より美しい

イシクラゲ4

前から気になってたあのコ

さて、今日はちょっと生物のお勉強をしてみました。
前々から、お寺の駐車場を通ると、気になっているなんか汚い「モノ」がありました。
いつもあるわけじゃないのですが、駐車場の隅っこに、なんだか黒いプルプルしたキクラゲのようなものが落ちています。気持ち悪いです。
ときどき踏んづけると滑ります。何かのフンなのか、キノコなのか?普段から気になっていました。
最近雨ばかり続き、駐車場を通ると・・・あ、いました。

イシクラゲ1  イシクラゲ2  イシクラゲ3 

一体なんなのかこの気持ちの悪い「モノ」は?

最近は便利です。Googleさまで検索したらすぐに分かります。さっそく「駐車場 キクラゲみたいなもの」で検索してみました。
情報を分析したところ、たぶんコレは「イシクラゲ」というモノらしいです。

まずそもそも分類上何なのか?当然クラゲではありませんし、苔なのかキノコなのか。

答え:藍藻でした。

1万年と2千年前から~♪どころじゃない

藍藻ってなんやねんてお思いかもしれませんが、それは藍藻に大変失礼な話です。
最初藍藻でピンとこなかったのです。藻なの?って思いました。ですが別の言葉に翻訳するとよく知っているものでした。シアノバクテリアです。シアンというのは緑っぽい青のことですから、「出藍の誉れ」の藍色の藻という日本語ですね。ときどき「ラン藻」という表記がありますが、藍藻は藻類ではないのに、藻だけを漢字にして、色として正確な藍をカタカナにするのは最悪の翻訳だと思います。ところで実は私、このシアノバクテリアには以前から思い入れがありまして、かつてはじめて教壇にたったときに、哲学になんてなんの興味もない理系の学生にどうやったら興味を持ってもらえるだろうかと悩んで、授業の導入に、

「”あたりまえ”だと持っていることの底には、実は全く知らないものが横たわっている。あなたたちが吸って呼吸している酸素も、もとはと言えば35億年前に地球に最初に発生して、少しづつ現在の大気を作り出してくれたシアノバクテリアのおかげで存在している。」

という言葉で最初の授業を始めました。その記念すべきシアノバクテリアが、お寺の駐車場にいたなんて!初恋の人に再会した気分!俄然興味がわいてきました。ちなみに藍藻は大きく言えば細菌の一種です。

イシクラゲは原核生物ですので、そもそも細胞の構造が我々真核生物とは異なります。つまり、核をもっていません。さらにこのイシクラゲは光合成を行いますが、葉緑体を持ちません。このへんがスケールのでかい話ですが、そもそも葉緑体というのは元をたどれば藍藻と同じ原核生物であったのが、生存のための戦略として、ほかの生物との共生を選択し、光合成専門の機関として細胞の中に間借りするようになったのが始まりだとする説があります。ミトコンドリアも同様で、こうした共生説に則ってあの「パラサイト・イブ」のお話なんかも作られています。

そこにシビれる、あこがれる

詳しく調べるとこのイシクラゲ、下等な生物と思いきや、すごい能力を複数持っています。「スタンドの能力は一体につき一つ」という原則を全く守っていません。まず一つ目が前述の光合成、二つ目は窒素固定です。空気中の窒素を取り込み、アンモニアの形で固定します。

N2+8e-+8H++16ATP→2NH3+H2+16ADP+16Pi

ということらしいです。化学は苦手なので全く意味がわかりません。しかしこれだけでは「ふーん」と思うだけなのですが、このアンモニアを2分子発生させる過程で、1分子の水素を発生します(その部分はさすがに分かります)。これが僕らにはとてもわからないくらいすごいことらしく、現代の科学では400~600℃、200~1000気圧の条件下でのみ行える過程を常温常圧で平然とこの黒いプルプルが行ってきたわけです。ちなみにこの常温常圧の窒素固定が実現したのはなんと2013年。成功したのはあの理化学研究所みたいです。(http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130628_1/こっちは本当だといいですね。

三つ目の能力がすごい。あのクリプトビオシスです。
クリプトビオシスといえばあのクマムシが有名。あ、あのあったかいんだからぁ~のコンビではなく、生き物のクマムシです。え?クマムシを知らない?もう!クマムシを知らない人生なんてすごく損してますよ!要は環境に対する耐性が異常に強く、非常な高温や低温、乾燥、無酸素状態などで一時的に無代謝状態=仮死状態になって、環境状態が緩和すると何事もなく復活する生き物です。私たちの食べ物にもよく入ってるトレハロースという糖を利用するようですが、詳しいことは化学の先生に聞いてください。男の子が燃えるポイントだけ言うと、クマムシの場合、樽状の仮死状態になれば151℃から絶対零度まで生存可能。圧力では真空から75000気圧まで生存可能。電子レンジでチンしても死なないそうです。さらに各種放射線に耐える。たとえばX線は500レントゲンでヒトは死にますが、57万レントゲンまで耐えるそうです。もはやアストロンを覚えているとしか思えません。

イシクラゲのクリプトビオシスの場合、主に乾燥に対する耐性が強いです。そもそも構造的にイシクラゲは寒天状のぷるぷる細胞の中に、細胞が数珠のように繋がったトリコームを形成しています。それゆえネンジュモ(念珠藻)という別名も持ちます。念珠藻がお寺の駐車場に生えてるってなかなか洒落てます。

イシクラゲ11

この数珠状のつぶつぶの一つ一つがイシクラゲの細胞で、まわりの寒天が水を吸ったり蒸発させたりをきっかけにトレハロースが分泌され乾燥から本体を守っているようです。まぁ、簡単に言えば「ふえるワカメ状態のまんま生きている」ってことになります。さらにすごいのはこのつぶつぶ一つ一つが先ほどの三つの役割を分担して行っているということ。人間様が「はじめての共同作業です!」などとケーキを割って喜んでいる横で、こんな原始的な菌が複雑な化学反応を分担して共生しています。人類大反省ですね。

他にも、イシクラゲはセシウムを吸収する能力が高く、キロあたり102万2000ベクレルも吸収した例もあり、除染に活用することも考えられているようです。(http://www.best-worst.net/news_7ViWdXNLS.html

駐車場や運動場に勝手に生えるなんかわからない黒いのが、俺たちにできないことを平然とやってのける。そこにシビれます。あこがれます。

なんと、食える

さて、イシクラゲについて散々調べて色々勉強したとき、気になる記述が。

「食用として使われる地域もある」

く、食えるーーーーーーー?

まぁ確かに見た目はワカメかキクラゲかアオサかって感じだけど、食えるのか!じゃあ食うか?食ってみるかー!

と、いうことで、次回、「イシクラゲを食べてみる編」につづく。

 

 

なお、今回のお勉強には以下のページが大変参考になりました。そのまま引用したところもたくさんあります。文学部卒にもすごくわかりやすかったです。ありがとうございました。

・中央大学理工学部教授小池裕幸さんの教養講座“ヘン”な藻類イシクラゲ
 http://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20140605.html

・中部青年技術士会「イシクラゲを喰らふ!」
 http://c-seinen.www2.jp/e-working/doc/1202/ransou.pdf