全力少年
先日、高校生を一人連れて社会人のクラブをお邪魔したんです。
その子は高校にあがったときは自分に自信がなくて、せっかくいいものも持ってるのに、全然活かそうとしなくて、完全に間違った自己像に振り回されて自滅してたんですよね。まぁ高校生ってみんな多かれ少なかれそうなんですけど。そこを少しづつ少しづつビックリさせたり、褒めたり、なだめたり、すかしたりして、ようやく高2くらいからかなぁ?「お?変わってきたな」って感じに、なってきたんです。
自分のショットに少しずつ自信を持ち始めたというか。実際、いいものもってるなと思ってたんですが、最近は、俺より速いんじゃないの?って思うくらいです。やっぱりスマッシュ打てる子は強い。結局スマッシュ打てないと何も効かない。野球でいうストレートと同じだと思います。ストレートあっての変化球。で、ストレートが速いと、変化球はものすごく効く。バドミントンってああ見えてすごく細かい変化をつけてるんで、シャトルをスライダー回転させたりシュート回転させたり、チェンジアップ気味に抜いたり、コースも右左だけじゃなく、高め低め色々使えるんですよね。スマッシュだっていわゆるインハイにあたる、のけぞらせる球もありますし、デッドボールがないので相手の身体に当てちゃうのはかなり有効です。
それでもやっぱり一番大事なのは、角度のある、渾身のスマッシュ。これがあってこそ、ほかのコースも生きてくる。でもこれがまた相手がうまくなればなるほど当たり前のように取られちゃうわけで。でも取られた時に「ああとられた。ダメだ。」じゃあ、ダメなんですよね。取られて当たり前、じゃあ次、また取られた、その次。3本、4本、5本目くらいまで計算していないといけない。逆に言えば5発連続で打てないようならそもそも「バドミントン」にはなってない、とも言えるわけで。まずはそこの土台作りで終わっちゃいます。練習なら10本でも打てても、ゲームの中で5本となるとなかなかです。体幹もできてないとダメだし、力がほどよく抜けてないと無理。どんな体勢でも同じように打てるように、となるとさらに要求されるレベルは上がります。しかも相手が強くなればなるほど、態勢を崩してくる技術が高まるわけですから、またそれに対応しなければならない。もうどこまでいっても強い人を相手にすればやり直しですから、アドバイスだって実はそう変わらなかったりします。人に散々「こうするんだぞ」と教えたことが、強い相手だと全然実行できなくて、強い人に自分が生徒に教えたことと全く同じアドバイスを受けることがあります。まぁ、本当の意味でできていなかったということなんでしょうけれど。
で、このスマッシュなんですが、実に難しい。技術もそうなんですが、心の整え方が難しい。
スマッシュはとられるものなんだ、という想定は、とられても焦らずに次の対処をとるためです。ですが、ここ一番!というときには、自分の全力をぶつけて打たなくてはならない。後先考えず、自分のすべてを乗せて打たないといけない。そういう気持ちの入ったスマッシュというのは、やっぱり全然違うわけです。でも、取られる。よっぽどのレベル差がない限り取られる。で、取られた瞬間切り替えないといけない。ひどいときには渾身のスマッシュを思いっきり切り返されて自分が打ったスマッシュより速いリターンを見送るだけ、なんてこともしょっちゅうです。でも、そこで折れたら終わりです。死ぬ気で打って、返されたら、またやり直し。また生まれ変わってやり直しです。そんな繰り返しを21点先に取るか、取られるかまでひたすら続けてるんだから気の遠くなるような作業です。みんなもっと気軽にやってるのかもしれないけれど、僕なんかは必死でやってます。
今、このコース打ったら、すごいの返ってくるかな?決まるかな?一瞬頭によぎるんですけど、次の瞬間には打たなければならない。正解はないんですよね。ベタなコースでも、上手い人ほどノーマークなコースというのもあります。逆に、そこそこ上手い人には有効なコースが、もう少し下手な人には絶好のカウンター球だったりします。そういう、言ってみればお約束みたいなものは、本に載ってたり、自分の経験則で導き出したものもあるんですけど、結局は目の前の一打ですから。確率とか関係ない。いっぺんとりあえず行ってみるか!死ぬわけじゃないし!そんな気持ちで打ってます。死ぬ気とか死ぬわけじゃないしとかどっちやねん、て話ですけど。
で、高校生は経験したことのないような強い相手に取られまくって、このままじゃアカンって別の人の方に逃げちゃったんですね。そのとき、高校生以外の大人は全員口々に「アカン。それではアカン。」ってつぶやいたんです。そこは逃げたらアカン。チームプレーとか関係ない。勝つか負けるかもどうでもいい、そこは打てと。男やろと。
そこで敢えてスカして決めるのも男やで。でも、今は胸借りてんねんから。とことんやったれや、と。スタミナ配分とかええやないか。死ぬわけじゃなし、死ぬ気でいけやと。わかりますかね、この矛盾した言葉のニュアンス。
帰りに高校生はめちゃくちゃ興奮してて、すごい楽しかったって言ってたんです。大の大人がそこそこ本気で相手してくれたわけですから。そんで、おまえが楽しかったっということは、相手だってつまらなくはないんやでと。で、あのレベルの人をちょっとでも楽しませられる人間なんやで、お前は。そこは自信もてよ、と。
たぶん、昔の自分に言い聞かせてたんでしょうねぇ。
まぁ若い子は気持ちいいです。男の子は特にバカでいいです。見てて実に気持ちがいい。
そんな気分の春の日でした。