山城観音めぐりライド
マニアとマニアの橋渡し
先日は、余った時間で山城地方の有名な観音さまを自転車で軽めに回ろう!というマニアックな企画を立てまして、ちょっと行ってきました。題して「ツアー・オブ・観音」第1ステージ。
今回拝観させていただいた観音さまは全て十一面観音。思いっきり白洲正子さんのパクリみたいな企画ですが、自転車でまわるところが新機軸です。
今回軽く驚いたのですが、山城地方の有名な観音さまのある場所は、ほとんど全て、サイクリストにとってのド定番コース沿い。自転車大好き人間にとっては「え?そんなとこに有名なお寺があったの?」っていう新発見が必ずあるはず。逆に言えば、一般の仏像好きの方にとっては「え?こんなとこ自転車できてんの?」という新発見。自転車と仏像をつなぐ架け橋、それが私です(笑)白洲正子というよりは、体育会系みうらじゅんと言ったほうがいい趣き。
いきなり国宝
それでは一軒目。場所は同志社大学田辺キャンパスそば、京田辺市普賢寺にあるその名もズバリ、「観音寺」です。
ツアーオブジャパン京都ステージのコースにほど近い、このへんを走る人には「ちきんはうす」のそばだよ!と言えばすぐわかる場所です。そうそう、あのスピード出せる直線のとこですよ~(安全運転でお願いします)
今回のツアー・オブ・観音のトップを飾るのはいきなり国宝!
ちなみに「国宝」と「重文」ってそもそもどう違うの?って思われるかもしれません。基本的に重文=重要文化財のなかでも、特に芸術的、歴史的価値が高いと判断されたものが「国宝」と呼ばれます。ただ、1950年に文化財保護法が制定されて制度改正されるまでは、国の指定する重文はすべて「国宝」と呼ばれていたので、ときどき重文の仏像に「旧国宝」と書かれていたりするのはそういった事情です。もちろん、どんなカテゴライズがされようと、その文化財の価値は、手を合わせるご本人のなかだけにありますので、国宝や重文というのはあくまで研究者の線引きだと思ってもらえれば結構です。
さてこの観音寺。東大寺と興福寺の両方と関係の深いお寺です。現在は真言宗になります。
もとは諸堂十三、僧坊二十余を数え、ということで、簡単に言ってこの一体すべてこのお寺といっていい巨大な大伽藍だったようです。
このお寺のご本尊、十一面観音さまはなんと天平時代の作。京都では唯一の木心乾漆造という技法によって作られています。これはまずは木造の型を作り、その上に漆の層を盛って作り上げていく、大変に予算と手間のかかる技法で、仏像作成が国家事業であった天平時代の前期にのみ可能だったやり方です。最も厚いところで2センチもの漆を盛ってあるということで、気の遠くなるような作業です。
突然自転車で訪れた私にご住職様?は快く拝観させてくださり、お厨子の扉を開けてこの天平の仏様を見せていただきました。流れるようなご説明もいただけました。もちろん写真撮影などできませんので、画像検索などで見ていただければと思います。
ふくよかな身体つきに黒々とした光沢。実に品のある観音さまです。また、見る角度によって表情の見え方も違ってきて、ずっと眺めていたい仏様でした。
続いて「ホントに千本ある」系
続いては観音寺からそのまままっすぐ進むとあっけないほど近くにある壽宝寺さま。
そうです、そうです。新しくできたコメダ珈琲過ぎて、ワークマンのそばです。公園の横!
こちらは御内室さま?が流れるようなご説明を下さり、宝物庫のなかで千手千眼の十一面観音さまとあいまみえることができました。
葛井寺の有名な千手観音と同様、ホントに手が千本あるだけでなく、手のひらに眼も描かれているのがいまだに判読できる、観音伝承に忠実に造られた仏様です。この仏様は光の加減で表情だけでなく、完全に見え方が変わってしまう非常に驚かされる一面があります。
平城京と平安京のあいだ
基本的に山城地方は奈良の勢力圏。「山城」はもともと「山背」と書き、奈良から見た目線で名付けられた、奈良時代の豪族の別荘地であり、橘諸兄の墓もいつもの大正池付近にあります。ですが、どんどん進んで滋賀方面までくると、事情が変わってきます。リオパイズに向かう大津方面まで行くと、京都の勢力圏に入ります。山城地方の多くの観音様のお寺がほぼ真言宗なのに対し、ここは曹洞宗であり、もともとは天台宗であったそう。地理的にも比叡山の勢力圏に入ってくるところですので、ここが平城京と平安京のちょうどぎりぎりの境という考え方もできるかと思います。
非常に珍しい茅葺きの本堂。江戸時代のもので、府の指定文化財だそうです。立派な仁王門もありました。
しかし私がまずビビっときたのが、山門入ってすぐの五輪塔。
この形は・・・コレは絶対南北朝時代の!大和様式!
そうです。あの来迎寺の五輪塔と同じ。反花座の形が一緒!特徴があるからすぐに分かります。石塔マニアの人にはたまらないものかと思います。会ったことないですけど、一定数おられるようです。すごいジャンルですよね。
さて、肝心の観音さまやほかの平安時代の仏様はすべて宝物庫内にあります。観音様は想像以上に大きかったです。巨大さのせいだけでなく、観音寺の十一面観音が女性的だとすると、男性原理がやや色濃いように感じました。あくまで個人の感想ですが。
しかしやはり天平仏とは趣が異なり、素人目にも平安の・・・そう!あの代表的な!定朝の阿弥陀如来に近い感じがするなと思っていたら、解説テープで定朝の師(であり父)、康尚の作か?といったような説明がなされていました。観音寺からスタートしたこの順番、すごく良かった気がします。
日光、月光、四天王なども藤原期の貴重なものですが、これもどことなく見た気が・・・。これは完全に私の個人的感想ですが、あの但馬仏像紀行の達身寺の仏像群に非常に近しい感覚を持ちました。達身寺では「お腹の出っ張ったこの地方独特の・・・」という説明がありましたが、十一面観音さま以外の禅定寺の仏像群はかなり出っ張ったお腹。達身寺だけの様式と果たして言えるのか・・・?と急に疑問がわいてきました。仏教美術の研究者でもないので、本当に単なる感想の話なのですが。
いやーしかし今回は、短時間なのに非常に興味深い自転車仏像紀行でした。とにかく暑くて日焼けが部分的に水ぶくれになりましたが、帰りは宇治田原の茶店で抹茶ソフト!またか!しかし、いつものあのお店よりかなり抹茶が高級な味がする上にあそこより値段が安い!この発見は間違いなく大発見です。いやー田原のお茶は美味しいなぁ。
半日で内容濃かったツアー・オブ・観音。山城ステージはまだ半分ほど。さらに近江ステージ、若狭ステージや奈良ステージも是非やりたい!
求む、観音さま大好きなロードバイク乗りの方。