慈眼寺 副住職ブログ

1054年以来の

下世話な話ばかり続いた日本列島ですが、重力波観測に続き、今度は世界史的に大変目を引くニュースがありました。

「ローマ法王とロシア正教トップ、1054年の東西分裂後初会談」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK12H4F_S6A210C1000000/

1054年以来の大事件!という形で報道するのが果たして正確なのかどうかという問題がありますが、なにより会談の場所がキューバというのが何とも興味深いですね。

東西の両方のトップが、互いを破門し合った1054年のいわゆる「大シスマ」以来、という意味で、今回注目されたようですが、このとき破門し合った当事者同士という意味では1964年にすでにエルサレムで、ローマ教皇パウロ6世とコンスタンティノープル総主教アシナゴラス1世の会談が会談をしていますので、歴史的にはこちらのほうがインパクトがすごかったでしょう。とはいえ、正教会の組織は、カトリックほどに明確なヒエラルキーで語れない部分があり、各正教会がある程度独立性をもっていますので、今回のロシア正教との会談もまた、「歴史的」なものとして注目に値すると考えられたわけでしょうねぇ。

しかし重ね重ね、会談の場が、ローマでもエルサレムでもコンスタンティノープルでもなく、キューバなのがものすごい違和感です。フランス料理のフルコースを食べていたら、突然ハンバーガーが出てきたようなビックリ感。

実際には、ヨーロッパ陣営とロシア陣営の、シリア情勢、というよりISを巡る対立を、宗教面からフォローしていこうという試みのようですね。とりもったのがカストロ議長というのがまたすごい。生きながらにしてもはや歴史上の人物と言っていい人。かつては第3次世界大戦を引き起こしかけた人物が、今度は東西の橋渡しというのも調子がいいですけど、やはりこの人は「持ってる」と言いますか、普通の人間とは持っている「力場」が違うと言いますか、ヘーゲル風に「軍服を着た世界精神」と呼んでもいいような、ちょっと歴史に選ばれた感のある人ですね。

しかしもう90歳近い高齢ですか。あれだけ独裁して暗殺もされず、野球大好きでアメリカに意地を張り続けて、最後の方でちょっといいことするとかカッコいいですね。この手の独裁者には珍しく、個人崇拝を強要しないし、あまり世襲にこだわる様子もなくてもともと好感があるんですけど。カストロには詳しい友人がいるのであんまり門外漢が軽々に語れないですけどね(笑)

宗教同士が手を組むのは喜ばしいですが、その理由が別の宗教との問題ということで、宗教って、ない方が幸せなんじゃないかなとか、こういう立場で言ってはいけないことを思うことも、正直ある私です。まぁISを「宗教の問題」と捉えるのも一面的だとは思いますが。以前にも言いましたが、「日本の仏教は宗教戦争を起こしてない」なんてのは大間違いでして、一向一揆の鎮圧どうなるねんとか、僧兵とか最悪やろとか、島原の乱も仏教のキリスト教弾圧やろとか、例なんていくらでも挙げられます。

お釈迦様は「こだわるな」って言ってるわけでして。

そういう「自分だけは・・・」という発想自体が、そもそもたくさん人を殺すタイプの発想だということを、もっと自覚したほうがいいですよねぇ。

なんてことを考えた、2016年のバレンタイン前日でした。

ちなみにカトリック教会ではバレンタインデー=聖ヴァレンティアヌスの祝日を「実在性の疑わしい聖人の記念日」ということで、公式の祝祭日から除外しています。異教徒の祭りどころか、異教徒のなかでも温度差の激しい祭りに必死になるのはやめようぜ!とうそぶく、ただのモテない独り言でした。とらわれるな・・・とらわれるな・・・・。