スリーハンドレッド③
さて、西浅井から本来は湖沿いに進むルートですが、敦賀にいくために永原駅から303号に戻り、161号に乗ります。さて、いよいよ峠越えです。
ずっと平地で来たのでここからの登りはかなりキツかった。既に距離は180kmほど。結局余呉だろうがどこだろうが、福井に向かうルートはキツイようです。
「福井県」の表示を見たときは思わず声をあげました。
「どやさーーー!」
ここからの下りは快調でした。ですが、ずっと下っているうちに不安になります。
「この下り・・・帰りは登りになるんだよな・・・」
心配になるほど長い下りを終えると、急に町っぽくなってきます。敦賀です。敦賀と言えば?レンガ倉庫?
こ こで写真を撮ることを結構楽しみにしていたのですが、案外撮れるポイントが少ない。結局レンガをバックにするだけなので、「コレって奈良の少年刑務所のほ うがいい絵が撮れるのでは・・・?」とか「押熊のジーンズのGEOでもいいんでは・・・」という身も蓋もない考えが頭に浮かびました。
ここでも何も食べずに写真を撮って即出発。僕にそんな余裕はない。食べるのはソイジョイばっかり。
帰りはあの峠です。予想通りだらだらときつい上に吹き下ろしの風がすごい。おまけに路肩が狭くてトラックが怖い。もう何も楽しいポイントがない!半泣きになりながら峠を越えると既にサイコンの表示は200を超えています。
「ほんまやったらもうビワイチ終わってるやん!」
という絶望的な考えを振り払い、今度は高島市を抜けていきます。このときがかなりつらかった。
既 に疲労のピーク。おまけに道は全然知らないところです。161号は渋滞気味だし、すぐにバイパスにあたって、自転車通行不可のところもでてきます。湖沿い のコースに帰ると海みたいな浜がずっと続いて優雅ですが、私は汗まみれでひたすら自転車を漕ぐのみ。腰も痛くなってきたし、湖も完全に飽きた。今津安曇川 あたりが本当に精神的にキツかった。ですが、心が折れそうなときには、不思議と担任した生徒と同じ名前の駅やら川やらが出てきて、「ぶはっ」と笑ってなん とかやりすごせました。不思議ですねぇ。ほんとうに。
こうしてどんどん南下するうち、日は暮れてゆき、途中なんかぴかぴかしてる街を通った気もしますが、気のせいでしょう。ようやく来たことのある比叡山あたりに差し掛かると、俄然元気が出ました。
浜 大津を過ぎればもうしょっちゅう来てるところ、藤村前を通りますが当然閉店。このとき既に7時を回っていました。ライトをつけてガンガン走ります。帰り猿 丸か宇治川ラインかで迷いましたが、「夜の猿丸は野生動物がいるが、夜の宇治川は違うモノが出る」という話を聞いたことがありました。本来後者のほうは専 門なので怖がっていてはいけないのですが、早く帰りたいので猿丸を抜けました。
玉水橋の手前で300㎞ジャスト。しかしこのときガーミンの サイコンが「充電してください」の表示。やばい。もう相当やばい。しかし300を越えると急激に体力が落ちます。以前200㎞を走ったときは「まだまだ余 裕や~ん」と思いましたが、300を越えてからの1km1kmは本当にきつい。しかも夜。心も体も限界に達し、ママチャリのようなスピードで進みます。さ らに自転車のライトまで充電切れかけに。USB充電は気軽だけどこういうときには困るなぁ・・・。
ライトの充電切れにビビりながら、夜の9時半頃、ようやく帰宅。
眠いのに頑張って起きていてくれた娘の顔を見て泣きそうになりました。
サイコンの電池残量は6%。なんとかギリギリもちました。
身体はと言うといたって元気。膝も筋肉も無事。ただ、背中が痛いのと、足の指が痺れていること、あと、手も痺れていました。あと、お尻のあたりも擦れて赤くなっていましたね。そら16時間も乗ってたらな・・・。
結局、総移動距離は317km。所要時間16時間。自転車を実質こいでいた時間は13時間。
平均速度は24.3km/h。意外に獲得高度は稼いでいて2123m。さすがに距離が長いのと、2つの峠を往復していますからね。
一番驚いたのが消費カロリーが推定10961kcal。かつ丼10杯ぶん。これはすごい。
さて300㎞越えの感想ですが・・・
既に300㎞を越えた先輩方。一人は伊根の先、経ヶ岬までの往復を敢行した化け物おじさん。もう一人は琵琶湖2周=ビワ2をやってしまったこれまたド変態のおじさん。二人とも口を揃えておっしゃるのは、
「あんなん、なんも楽しくない」
ということ。100や200で美味しいもの食べて、輪行して帰るのが一番です。ただただ黙々と走り続けるって、八甲田山じゃないんだから。
ですが、どうしても今回300㎞を達成したかったのには一つ理由もありました。
私の愛車は私のために採寸して私のためだけに造られたフレームです。職人さんが、お店の人が私のために一生懸命作ってくれたものです。設計段階では、
「300㎞ライドにも耐えられるロングライド仕様に」
というコンセプトでジオメトリを決め、ホイールも手組にしました。
せっかく「300㎞」を念頭に置いて設計された自転車で一度も300㎞を走っていないのはどういうことか、という思いが私の中にありました。今回300km走ってみて、この愛車が私の手に届くまでに仕事をしてくれたすべての人に、
「みなさんは最高の職人です。ありがとうございます。」
と言いたいです。
それと、しんどいだけ、つらいだけなのはわかっていました。
今回のライドはそれを確認するだけの作業。そりゃあ海鮮丼でも食べられるグルメ旅のほうがいいに決まってます。
ですが、ひとつだけ。
「最近の若い者は・・・」という言葉だけは嫌な私ですが、そんな私でも生徒などと話していて残念なことがあります。
「分かってるんですけどね・・・」
という言葉です。
やってもいないのに、「もう分かっているから」といって、やらない。
それは違うなぁ、と。
「しんどいだろうなぁ」と「しんどかったなぁ」には何万光年もの隔たりがあります。
実際にやらない人間の「分かってる」って何なんでしょうか。そんなもの、屁のつっぱりにもなりません。
「予想通り」でいいじゃない。たまには「予想外」だってあるかもしれないじゃない。「予想通り」ってことを確認するだけでも意味があるよ。とりあえずやってもいないのに、人に否定されるのが嫌なもんだから、あらかじめ「分かってはいるんですよ」と防御線を張る。
そんなのは若い人のやることじゃない。
それだったらやる前には「そんなの楽勝ッス!」って言って、実際やったら全然ダメで、「全然ダメでした~!」って泣きを入れてるやつの方がよっぽどいいです。気持ちいいです。若いときにしか、そんなことはできない。
だんだん若くなくなって、そんなバカもできなくなってきた。
だからやりたい。やらねばならぬ。やらいでか!やったった!!!
だからどうだというゆっくり長く走っただけのライドで、速い人ならあっという間に終われたライドなのですが、それはそれ、他人の話。
大事なのは私がどうだったか。
今も昔も、大事なのは。本当に大事なのは。それだけです。
たった一人の自分に向けて、
「どやさ!!!」
と言ってやりたい。
つまるところ、人間って、そういうもんじゃないかなぁ。