魔界大冒険
自転車は、そもそも基本的にマニアの領域。
一癖もふた癖もある連中が日々自分の自慢の自転車を磨き、整備し、それに乗って自分の身体を磨き、自分だけのこだわりを実現して日々走っています。そんな厄介な趣味のなかでも、「あそこだけは近づいたらアカン」と友人と口々に戒め合っている領域があります。
ヴィンテージの世界です。
ヴィンテージ、それは優雅な世界。いつの時代も最先端を目指してきたロードレーサーの、それぞれの時代のフレーム、パーツに「美」を見いだし、とことん自分の趣味にかなうものをセレクトし、飾る。乗る。機能はある程度二の次。その当時の不便さごと、愛する。そんな世界。
しかしそこはこだわりの泥沼。こだわりだしたらキリがない。おまけにパーツは現在入手困難か、不可能なものばかり。ハマったら終わりの底なし沼・・・。
そんな魅惑の世界のお店が、大阪にある。知ってはいましたが恐ろしくて近づけませんでした。
「店に入っただけでお金をとられるのではないか」
「ワインが出てきて、別料金が発生するのではないか」
「一台100万円とか200万円とかするのではないか」
「自転車を叩いて、”いい仕事してますね”などと言っているのではないか」
「ものすごい気難しいマニアだけが日々集まっているのではないか」
「ネクタイ着用が義務付けられてはいないか」
「素人は石を投げられるのではないか」
「現代自転車で乗り付けると小一時間趣味を否定されるのではないか」
「”君の人生は満たされているか。ちっぽけな幸せに妥協してはいないか”とか言われるのではないか」
そんなことを冗談半分、半分本気で、お友達と言い合っていましたが、ある日、「よし、覗くだけ、行ってみよう」と思い立ちました。デローザ大好きで、茶道具など骨董品にも造詣が深いネオプリ先生を誘ってみましたが、
「あそこは行ったらあかん。帰ってこれなくなる。この件に関して、僕は見ざる。聞かざるで。」
と返されました。
仕方なく、一人で生駒山を越え、ひたすら中央大通りを西へ。いつ走っても楽しくない大阪市内を進み、農人橋で松屋町通りを左折、さらに進んで川原町2丁目を右折・・・ありました。
BI CI CLASSICAさんです。
ええ感じの古民家であります。イタリア人のオーナーが自ら改装したというコダワリの塊のようなお城であります。き・・・緊張するなぁ。
意を決して中に・・・
おお・・・
おおお・・・
なんというオシャレ空間。
日本の古民家&イタリアンヴィンテージロード!言うなれば、懐石料理に生パスタ!
「ご・・・ごめんくださ~~~~ぃ」
返事なし。
「あの・・・・」
もうちょっとで「ボンジョールノ!」と叫ぼうとしたそのとき、奥から人が出てきました。オーナーさんか!?
しかしでてきたのはものすごい美人の若い女性!意外ッ!古民家&イタリアンビンテージ&美女!これは意外!意外だが・・・
合う!
似つかわしい。この空間に溶け込んでいる。もしこの空間に異物があるとすれば、それはいまこの店に入ってきた奈良のお坊さんである。間違いないッ。とりあえず、「こういう世界ぜんっぜんわかんないんですが、見に来ちゃいました~テヘヘ~」みたいな感じで来店理由を告げ、店内を眺めます。今日は写真だらけよ!
ウェアもビンテージもの。
思わず、「これはたまらん。これはたまらん。」と呟いてしまいます。世の中の自転車屋さんと違って、ここは夢だらけ。
最初の二間のさらに奥にもまた自転車。想像以上の広さ。
名だたるメーカーがズラリ。
女性の店員さんは、入場料を取るわけでもなく、ドレスコードをとがめるでもなく、ジーンズ姿のラフな格好。気さくに話しかけてくださり、私のカメラを誉めてくださいました。げんちゃん、ヤッタデ!さらには外に駐めた私の自転車に「コレ、カッコイイですね~」と興味津々。美女に愛車を誉められて副住職完全にのぼせ上がっておりました。修業指数ゼロ。ここで切支丹に勧誘されたらアウト。アーメン!
ここで「何か気になる自転車ありますか?」みたいな質問。キタ!セールスタイム!さっきから見てても、どの自転車にも値札ナシ!行ったことないけど知ってる。コレ、行ったらダメなお寿司屋さんのやり方や!
「あの~値札とか、ないんですけど、お値段とか・・・」
話を聞いてびっくり。案外というか、普通と言うか、むしろ想像よりはだいぶ安い???
「そうなんですよ~。もちろんモノによるんですけど、いきなり普通の人がきたら高ッ!って感じなんですが、普段ロードに乗ってらっしゃる方からすれば、”まぁそうんなもんだよね。むしろ安いよね。”って言われます。」
ほとんどが完成車で売られてますので、値段的には中級カーボン程度。むしろ中途半端に現代の有名なクロモリフレームを買って、コンポ、ホイールを現代パーツでまとめたほうが確実に高い。ビンテージとしてもネットオークションのほうが高い気が・・・。
さらによくよく話していますと、この方、店長さんの娘さんだということ!なんと!父娘で営業しているとは!道理でこのお店の雰囲気に溶け込んでいるわけだ。ほぼ自分のおうちということか。
お父様は?と聞きますと、「本業で出てます」との答え。????。
どうやらお父様のヴェラーティさんは本業が建築家(そして十代のころはレーサー)。「そうでもないと、コレ一本ではなかなか・・・」え?そういうものなの?なんか誤解してました!すいません!
ちょっと安心して気になった自転車を告げるも、私の気に入ったものはどれも「売約済み」「一番高いやつ」「非売品」のどれか。私、もしかして見る目あるの?あとから他のお客様もこられたのですが、いわゆるコレクターみたいな人や、ガチガチのレーサーみたいな人は逆に常連さんにはあまりおられないとのこと。みんなここの自転車を見て、「カッコイイなぁ!」っていって買われて、それだけで済まなくてどんどん乗り出して、楽しく遊んでおられるとか。ただし、パーツがパーツなので、用途を選んで使うようになっていく、とのこと。そりゃまぁ80年代前半の装備でヒルクラやロングはキツいですわ。
しかし驚くべきは、お嬢さんの自転車知識。実にお詳しい。しかしこんな若い女性が「Cレコ」「Sレコ」などの単語をちりばめて会話なさるという違和感が面白い。面白い店だなぁ。ぜひオーナーさんともお会いしたかった。しかし実に実に楽しい、夢のような時間でした。もっと早くくればよかった。
こんな素晴らしい自転車乗りの夢の空間ですが、一つ残念なお知らせ。このあたり一帯の宅地開発で、ここの立ち退きが既に決まっているとのこと。移転先は未定ですが、確実に今より狭くなるので、こんなにズラリと並べられないであろう、とのこと。10月いっぱいはここで営業できる、とのことで、絶対にもう一度近々来ようと思いました。その旨お伝えしようとしたところ、ここで私、大失敗。
「また、引っ越しまでに必ず来ますので」
と、言うつもりが、
「潰れる前に、必ず来ますので」
⇒副住職!アウト!
やってもうた~なんでそうなる~。
慌てて訂正しましたが、笑って許してくださいまして、寛容な方で助かりました。ホンマ、副住職さいあく~。
そんなわけで、勝手にビビりまくっていましたが、とってもオシャレで、とっても気さくで、良心的な、素晴らしいお店でした。10月末までに、この素晴らしい空間を目に焼き付け、それ以後の移転先にも大きな期待をもって待ちましょう。いや~ええとこやった。ごくらくごくらく。
BI CI CLASSICAさんの情報
http://www.biciclassica.com/