慈眼寺 副住職ブログ

casatiの「世界」

いよいよメインディッシュの始まりです。

ネオプリ先生はその名の通り、デローザのネオプリマートを愛用しています。

ネオプリマート、スーパーコルサ、マスターXと言えば、「クロモリ御三家」と言っても誰も文句を言わないクロモリの世界標準。
それぞれ持ち味は違いながらも、クロモリの「しなやかで乗り心地がいい」「ウィップ」などの少々聞き飽きた表現を散々纏って我々の目に入ります。

もちろんどれも名機。ホリゾンタルが美しい。オシャレ。なのですが・・・

クロモリってそれだけなのでしょうか?

実は一口に「クロモリ」と言っても、その乗り味は、全く違います。
どれも同じように感じるのは、日本人がそのような乗り味こそを「これぞクロモリ!」と喜ぶから、そのようなものが多く売られているだけ。全世界で、アメリカと日本だけがクロモリをいつまでも愛している。なかでも日本は、古典的なクロモリのみを有り難がる傾向にあります。

ホリゾンタルで、細いパイプで、ラグ溶接で、メッキフォーク。

しかしクロモリはそれだけで終わるにはもったいない素材です。それをずっと分かってほしくて、去年からネオプリ先生を試乗会に誘っていたのですが、なかなかお忙しくて実現せず。ご本人もイマイチ乗り気でない様子でした。

それから1年、走行距離も飛躍的に伸びられて、一気に変態の仲間入りを果たした先生を今日は、思う存分クロモリフルコースでお招きします。クロモリ乗りだからこそ、分かる、その違い。それを存分に味わってもらうつもりです。私なりのお金のかからない接待であります。

一発目。前菜にトマジーニ。シンテシ。

看板とか草とか、写真としてこれどうよという点はご容赦ください。

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あの、火野正平で一気に有名になったシンテシ。
美しいです。これぞクロモリ。色遣いや柄のパターンも豊富です。カラーリングといえばコルナゴみたいな風潮ありますけど、あっちはちょっとやりすぎなんじゃないの?と思うこともあり、実用性とのギリギリのラインでいけばこっちがむしろ・・・なんて思っちゃいます。それと、トマジーニのロゴやエンブレムは本当にオシャレというか、センスがいいなと思います。

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先生が走った感想は、

「いいっすねー。楽にいくらでものんびり走れそう。」

まぁそれ、よくあるクロモリの感想ですよね。

どちらかというと、ネオプリマートと近い印象かと思います。
「しなやかさ」ってやつですか?人によっては、「もっさり」と感じる場合もあります。
わざと彼の自転車に近いものから始めました。

このとき、私が乗らせていただいていたのが、コレ。

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casati、リネアオロクラシック。
並走しているときから、先生は「映えますね!その赤!映えますね!」と絶賛。いわゆる”ロッソフェラーリ”ですね。

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不思議なんですが、トマジーニの自転車は停めていると目が留まるのですが、カザーティは目立たない。
逆に走り出すと、一気にその立場は変わります。カザーティは、走っているときこそ、美しい。

ここで、二人の自転車を交換し、いよいよ彼がcasatiに。

「え?え?ん?( ,,`・ω・´)ンンン?」

分かります。分かりますよ。その反応。

数年前に私がはじめてコレに乗ったときもそうでした。

笑っちゃうんです。

なんだかわからないんですけど、ニヤニヤと笑ってしまう。
それがcasatiの走り心地です。

かかりはいい。踏めばグングン進む。グングン進むが、それが急かされている感じではない。
今まで感じたことのないような、快い感覚で、五感をくすぐるように進んでいく。
なんというか、若鹿が躍動しながら走っていくような、生命力に溢れる不思議な感覚が身体中に感じられて、実に気持ちいい。

「自転車で風を切って、気持ちよさそうですね」

なんて乗ってない人がいいますが、そんなもんじゃない。寒風吹きすさぶ荒れた路面でも、おそらくニヤニヤ笑いながら進んでしまう、この不思議な感覚。タイヤやホイール、フォークで味付けなどいくらでも変わるものですが、しかしcasati独特の春風のような心地よさは、ちょっと他にはない。

さっきから、なんだかワインのソムリエの気取った表現のようですが、体感したことのない感覚を表そうとすると、こういうことになっちゃいますね。

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(※おっさんの笑顔にはモザイクがかけてあります)

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ずっとニヤニヤ笑いながら、もはや降りようとしないネオプリ先生。

続いてリネアオロ。フォークがカーボンになります。

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これも写真が悪いですが、こちらはラグ溶接ではない、フィレットブレイズという溶接方法で作られています。よりカザーティらしいとも言えます。
メッキラグを見て「クロモリらしい」という考え方が一般的ですが、ラグ付けというのは、パイプとパイプを継ぎ合わせるときに、都合のいい関節を使って接合する方式であり、むしろ手間を省いたやり方。

フィレットブレイズでは、ロウと呼ばれる真鍮や銀の合金を盛り固めてパイプを繋ぎます。
この工法ですと、低温での溶接が可能ですので、パイプの金属属性を変質させにくいというメリットがありますが、手間が非常にかかります。

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その代り溶接部分の美しい、生物的な曲線が楽しめます。最初からこんな形で生まれたかのような滑らかな表面です。
そしてその上の塗装は、写真では伝わりにくいのですが、単純なホワイトではなく、絶妙な光沢を見せるパールホワイト。

奇しくもネオプリ先生が、

「赤いのは、人が乗っているのを見てしまうけれど、白いのは、乗りながら自分が見てしまう」

とおっしゃいました。まさしくそうで、私も何度も危ない目にあいました。

「家の中に吉永小百合がいるよう」

そんな冗談を、半分本気で言ってしまう自転車です。当然乗り味は極上のcasatiの世界そのまま。

自分でも新しい発見がありました。今回乗った二台のリネアオロ、乗り味は同じだったものの、赤いクラシックのほうが、クロモリフォークのはずなのに、特に固い印象もなく、むしろ安定感があって気持ちよかった。以前試乗した時は、白い方のカーボンフォーク最高や!と思ったのですが。
しかしそれは、今回乗った白のほうは、サイズが小さかったので、固く感じたのかもしれませんけど。

そのあとは、新しくラインナップに加わったピエトロ。カザーティの初代ピエトロの名を冠した一台。

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エンブレムも創業当初のものらしいです。私はこっちのエンブレム好きですね。

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乗り味は古典的クロモリにだいぶ寄せた感じになっています。以前乗ったモンツァの高級版って感じ。

 

一同に揃ったクロモリ軍団。このどれもが独特の個性があります。

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アクションスポーツ営業のAさん、いつもありがとうございます。

「別にすぐに買えなんて言いませんよ!でも、いいものを楽しむ時間は、長い方がよくないですか?」

至言であります。

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casatiは、フィレットブレイジングで有名ですが、ラグでも当然高い技術が垣間見えます。
飾りのついたゴッテリしたラグが「美しい」と日本で言われますが、最小限のラグでバチッと接合して精度を出すのがホントの技術や!と言わんばかりのシンプルなラグワークです。

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随所に分かる人には分かる技術の高さが現れています。

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再び美しいフィレットブレイジングのリネアオロ。もうなんだかカーボンフォークが無粋に見えてきました。

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もうウンザリするくらい聞いたので写真撮らなかったですが、シートポストにネジがないのは、ヒドゥンシートバインダーという独自技術です。裏側に小さいネジ穴があります。隠れてるんですね。フレームの美しさを損なわない工夫です。

カーボンから始まり、様々なクロモリを乗りまくって、先生と私は食事に。話はずっとリネアオロの話。

そこからさらに移動して梅美台にできた梅美台カフェさんのテラスでおいしいコーヒーを頂きました。なんか都会ではやたらとテラスで座りたがる人が多いですが、ここのいいところはテラス席だとテイクアウトカップで飲む代わりにコーヒーが3割増量な点!おまけにレーパン姿のおっさんが、オシャレな店内に入るのは心苦しいので、テラスのほうが落ち着きます。写真はないけど、ここのホットサンドイッチが美味しいんですよね。

こうして改めておいしいコーヒーを飲みながら、昨日のブログの冒頭の会話に戻るわけです。ここでもまだリネアオロ(笑)

「なんなんアレ?」

このセリフを何回言ったか分かりません。分かるよー。何でああなのか、全然分からない。
実に面白いです。技術こそ丁寧な仕事をしていますが、パイプも(たしかデダチャイSAT 14.5)軽量ではありますが、特に最新素材というわけでもない。どこをどうしているか、分からない。

「何がいいって、ギャップなんですよね。見た目はこれ以上ないくらいクラシカルなのに、走るとすごい。アレ、カッコイイですよ。」

もう、ネオプリ先生は完全にリネアオロの虜。でもそのへん実に分かります。

「あんなフレーム知ってるのに、いまのフレームにした決め手はなんですか?」

とも聞かれました。

現在の愛車も独特の感覚があって、すごく楽しいです。さらに言えば、casatiはクロモリなんだけど、美し過ぎて、輪行とか、連れてけないっていうのが買えなかった決め手です。

「沢口靖子をお母さんにするのはちょっとアレだろ?」

と答えました。武骨な金属剝き出しの感覚が欲しかった。武骨なのに、美しさが滲み出てくるのが、今の愛車だと思っています。いや、ホントたまらないカッコよさがあります。

とはいえ、casatiの「世界」にネオプリ先生を引きずる込むというミッションは見事成功。以前何度かラガッツィでリネアオロを見せたときは、「フーン」って感じだったのに、えらい違いです。でも分かります。私もそうだったから。

地味な自転車なのに、その「世界」に入れば、魅力から逃れられない。昔Ragazziの店内で忘年会したことあるんですが、宴も落ち着いてきて、話すことも少なくなると、ずっとこのリネアオロを見ながらチビチビやっていることに気づきました。

casati

「コレが家にあったら、乗ってても楽しいし、これを肴に酒がおいしい」

完全に変態の世界ですが、ロードバイク乗りは多かれ少なかれ、こういう「一台」を持つことを夢にしている部分が、あると思います!

そしてそんな一台のなかでも、

乗れば「世界」が変わる。

とまで言える自転車は、なかなか多くはありません。

ネオプリ先生は結構疑り深い性格で、なかなかすんなりハマりませんが、ハマったら完全に泥沼。去年にはNEVIのSPINASが夢に出てきて困っていましたが、これからはcasatiの夢に悩まされる日が続きそうです。

 

追伸:もう今日、「リネアオロに、こういうカラーリング、どうですか?」というメールがきました。(´・ω・`)知らんがな