Ta Panta rhei
暑いですね~。ムッシムシしますね~。
この暑さの中、選挙カーから明るい声で名前連呼、ツライものがありますね~。あちらもお仕事ですから仕方ないですが。
先日、貴重なフレームに乗せて頂いたので、そのお話。
先日アトリエキノピオの安田さんと楽しいひとときを過ごしましたが、安田さん、もう一つの置き土産!
今度ズッロを取り扱うことになったラガッツィにしばらくズッロのパンタレイを試乗車としてお貸しいただけました!
パンタレイは以前このブログでも書いた、コロンバスspiritを使用したtig溶接のモデル。さてさて、どんななのかな~?
まずはカラー!
緑!
ズッロのマークがちょっとグロンギ文字っぽい!
ではもったいぶらずに全体像!
おおおお~いいですねぇ!緑に赤のクリスキング!
このカラーリング、どこかで見たぞ~!
アマゾンオメガ!オメガや!そっくりや!
冗談はさて置き、じっくり見てみましょう。
サドルと、おそらくバーテープもブルックスですねぇ。合いますねぇ。もとはドイツで展示に使用したものだそうですが、安田さんのサイズに合わせてありますので、デカい。
Zullo Tiziano?と書いてあるのでしょうか。緑の塗装に黄色いパールを合わせているそうで、重層的で角度によって表情を変える、何とも言えない黄緑になっています。実物のほうがもっと魅入られます。
複雑で優美な形をしたディレイラーハンガー。オリジナルでデザインされたそうです。この肉抜きというか、複雑な穴をあけるのは技術的には相当難しいようです。穴と穴の間の部分が細すぎて普通はこんなに綺麗に残せないとか。某工具メーカーの方の受け売りですけど。
さて、見た目の話、だけで終わらないのがズッロ!
いよいよ試乗であります!
おほほ~!
久しぶりに笑みがこぼれましたよ~。コレはcasatiのリネアオロ以来の感覚。面白い感覚だなぁ!
持てば軽くはないです。ホイールも手組ですし、特に軽量パーツというわけでもないですし。
しかし乗ると面白い。
クロモリによく使われる、「しなり」とかそういう言葉では表現しきれない、曰く言い難いものがあります。パリッと反応よく、入力に対して応えてくれる反応の良さもビンビン感じます。
大径薄チューブの乾いた感じと、人間の入力に、小気味よく返してくれる反応の良さ。カザーティにも通じる独特の感じ。
クロモリ懐古主義の人だとちょっと違うわ~と感じるであろう、カーボン全盛の世の中で、敢えてクロモリで、しかも懐古趣味ではなく走りたい!という気持ちに対して、現代の技術で鉄の可能性を引き出そうとした答えがここにある気がします。
ただしリネアオロと違うのは硬さ。明らかに硬い。このへんは本当に私的な感覚でしかないのですが、リネアオロが外はもっちり、中にしっかり芯がある、パンタレイは外が硬くて、中心にほんの少し柔らかい部分がある。チタンだと、これが均一にちょうどいい感じ。ただ、クロモリのこのアクセントみたいな感じは、乗っていると楽しさにも変わるんですねぇ。
このフレームの硬さは説明しにくいですねぇ。
高級カーボン、たとえばタイムのZXRSとか、カレラのエラクルなんかのこちらの力を完全に跳ね返してしまうような、壁のような拒絶感といいますか、一般人にとっては一種不快なまでの硬さといいますか、そういうものとは別種の、若干の懐の深さのようなものがあります。
普通の、昔ながらの細身の、ホリゾンタルの、ともすればもっさりしたクロモリを鉛筆でたとえるなら2BやBだとすると、リネアオロがHB、パンタレイはHかなぁ?2Hかなぁ?というところ。
正直、200㎞超えるようなロングライドになってくると、パンタレイはしんどさが勝ってくると思います。やはり硬い。カザーティのLazerに乗ったときもそうだったのですが、やっぱりレーシーなんです。カザーティのエスプレッソとかもこっちの方向なんでしょうねぇ。
やっぱり生粋のレースマシンですよ。
敢えて鉄を使って、本気でレースに勝ちたい!というわざわざ面倒なことに挑んだら、こういう答えになりました!と感じます。
「パンタレイ」は、「万物は流転する」という意味の言葉。ギリシャのヘラクレイトスの言葉ですね。いわゆる「同じ河に入ることはできない」ということ。鉄も一様ではなく、鉄だって時代に合わせて変わっていく、ということなのかも。
昔ながらのホリゾンタル。綺麗ですよ。確かに。細身のチューブ。カッコイイです。
でも乗って楽しいですかと。
シルバーパーツで固めて、スレッドステムで、ダブルレバーで、ワイヤーも昔っぽく湾曲させて・・・。
うんまぁ、コレ、飾って見てるのが一番だよね、という。よくて街乗りですよねって。
不便さがいい。
それも分かるんですよ。便利で速いだけのカーボンロードなんて要りませんもん。素人に。素人だもん。世の中9割9分素人ですよ。
でも一方で、やはり本来はレース機材のものを、もっと速くできるのに、わざと時間を止めて、「昔のスーパーマシン」の状態で乗る。そういうの、エロイカだけでいいですよね。大好きですよ。そういうの。でもそれだけじゃなぁ。そもそもその時代、知らないし。俺ブームに乗って乗り始めたにわかだし。
あとホリゾンタルにこだわった挙句、シートポスト全然出てないとか、ちょっと本末転倒だと思うんですよ。自分の体格に合ってないってことだから。
やっぱ乗ってナンボ、速く走らせてナンボ。
そして「速くありたい」と思わせてくれるフレーム。でもどこかしら言い訳の余地もある感じ。このズルさというか、勝負と逃げの絶妙のバランスこそが、我々「素人」の楽しさの醍醐味だと思うんですよね~。
素人で何が悪い。
普段は真面目に働いて、お小遣い貯めて、速くもないのに高いフレームを買ってくれる我々のような輩がいるから、メーカーが潤い、ひいては選手も走れるわけですから。
その誰より偉い「素人さま」が、ときどき本気を出したいときにその本気を丸ごときっちり受けて、ええ感じにぶん投げてくれる。楽しく負けさせてくれる。もちろん速い人が乗れば、普通に速い。
速くなければならない人はカーボンに乗ればよい。
速くても遅くてもいられる自由な人は、いい鉄に乗れ。
そういう微妙過ぎるニッチな需要を感じましたねぇ。本当に絶妙な味付けですよ。しかも、フルオーダーで、味付けは自在なんだからたまりません。こういう贅沢を味わわせてくれる価格としては破格に安いと思います。こういうときにこそ使うべきだと思います。コスパ最高!って。
一流料亭の名人の味がこんな価格で!
こういうのと、とにかくマックで炭水化物で腹いっぱいっていうのは、同じ「コスパ」でもやはり違うと思うんですよね。
コスパという言葉の使われ方は大嫌いですが、「ホンモノ」を味わう価格としては破格に安いんですよね。
なんだか長々と書きましたが、眺めてよし、走ってよし、ヴィンテージ風に振っても、スパルタンに振ってもカッコイイ、自由自在なホンモノのフレームでした。