慈眼寺 副住職ブログ

運慶仏のおわす極楽浄土を見たり。

先日、せっかくお休みをもらえた日が雨になり、自転車にも乗れないので、お寺でも行こうかとふらっとお出かけしてみました。

といっても、遠くはしんどいし、どこに行こうかなとふと考え。
まぁ、奈良ですので、数えきれないほど、いいお寺があります。東大寺でも興福寺でも薬師寺でも唐招提寺でも、あんまりありすぎてありがたみがないほどに国宝目白押し。近すぎてかえって行かない。しかも、困ったことに、社会見学とかで子供のときに行っているものですから、「もう行ったし」と思ってしまう。これは逆に機会損失。価値の分からないうちに行くのはかえってダメな部分ありますね。

そうか。逆に行ったけどよく覚えていないところへ行こう。近すぎてかえっていかないところ。

そう、毎週のように、ひどいときは毎日のように自転車で前を通っているのに、中には入っていないところ。昔母親と歩いてきたけど、中のことは全然覚えてないところ。美しい庭と、あの!運慶の傑作仏像があるあのお寺!

円成寺であります。

柳生街道沿いにある有名なお寺。なのですが、少しだけ交通の便が悪い。奈良市は奈良市でも忍辱山町。まず町名が一般の方に読めない。

「にんにくせん」と読みます。大乗仏教で悟りに至るための六つの修業、六波羅蜜の一つに「忍辱」というものがあります。その字の通り、あらゆる困難を耐え忍ぶということであります。

ものすごくいいお寺なのですが、電車できた観光客の方にとっては、バスしか交通手段がない。けっこうな山の上でレンタサイクルでは無理がある。しかも平地にもお寺はいっぱいある。ついでに寄りたい名所も、メジャーなのは、ない。そんなわけで、めちゃくちゃいいところなのに、「知る人ぞ知る」という感じです。

実はこの円成寺、私の普段の自転車トレーニングコース、奥山~柳生コースで必ず通るところ。夕方に通ると、裏門から夕陽が見えて美しい。ただ、もうここまできたら家までもうちょい(10kmくらいひたすら下り)なので、勢いで帰っちゃうんですよね。あと、格式高いからレーパンあかんやろというね。

ところが、ここの前を通ると、最近どうも人が多い。土日なんか駐車場埋まってる。バス停で待つ人もけっこういる。コンビニなんて全然なくって、色褪せたカップヌードルの自販機があったりするところなのに。

なぜだろう、なぜだろうと思っていたら、ある檀家さんからこんなことを聞きました。

「円成寺の人も急に人が増えたのをいぶかしみ、”なんで来たんですか?”と聞いたところ、”え?知らないんですか?いますごく話題なんですよ”との返事。どうも、なにかの動画で円城寺が紹介されて、関東方面で有名になっているらしい。」

コレかな?というのがありました。

JR東海 うましうるわし奈良 円成寺

なるほどコレはカッコイイ。来たくなる。しかもちょっと隠れ里にあるから、ありきたりな奈良に慣れた人には、「穴場」に映るのかも。実際超穴場だし。しかもカーシェアとかメジャーになりましたからね。

そんわけで、近いのに大人になってから行ってない自分は恥ずかしい、ということで、行ってきました!円成寺!

ムム!カッコイイ。円は旧字だと圓ですから、こちらが正しい。

いきなりお庭が極楽浄土。ちょうどいいサイズの平等院という感じ。とにかくお庭がきれいです。今はキンモクセイが咲き誇っておりまして、ものすごい芳香であります。紅葉の頃はさぞや見ごろ・・・とは思いますが、個人的には少し青いもみじのほうが好み。しかも雨が滴る日が好きなので、今日は個人的ベストな日。

応仁二年再建の楼門。もちろん重文です。正直重文が多すぎて、麻痺するお寺ではあるのですが。
この楼門からはお庭の景色が額のように切り取られて見えて、風情があります。

ええなぁ。一幅の絵のようです。

緑が滴る季節。

国宝春日堂。こんな小さいお堂がなぜ?とお思いかもしれませんが、このお堂、春日大社の式年遷宮のおり、古くなったお社を譲り受けたもの。20年ごとに毎年作り変えるので、古いものはまわりに譲ったりするのが普通だそうです。色々なところに譲られたそうですが、結局壊れたり焼失したりするそうで、こちらは現存する春日大社の社の最も古い社殿になるそうです。なんと1228年のもの。

このあと、本堂の中に入るわけですが、当然写真撮影はしていないので、上の動画などでどうぞ。まぁとにかく立派な阿弥陀さま!個人的には横顔が特にオススメですね。さらに、四本柱に描かれた絵画が素晴らしい。あ、そうそう。本堂の屋根の形もちょっと珍しい。

一般的には、お寺は棟と平行の面に出入り口を作る平入が多いのですが、逆に棟と直角になる「妻」に出入り口を作る方式を「妻入」と言います。出雲大社なんかと同じ形です。むしろ、お寺の庫裏(生活空間)のほうがこっちの形式というのが多いですね。相国寺の庫裏とか有名ですよね。

本堂内には他にも十一面観音菩薩もあって荘厳な空間です。重文の四天王も壮観です。

そしていよいよ、メインの・・・運慶の大日如来坐像です。

以前は多宝塔のなかに安置されていたそうですが、去年東京で開かれた運慶展からかえってきたときに、相應殿という収蔵庫的なところに移されました。これがまたナイスでした。

相應殿入口。芸術家の自宅のようです。めちゃくちゃオシャレ。センスを感じます。

玄関を入るとこの景色。外の景色を取り入れた落ち着いた空間。こんな庫裏めちゃくちゃあこがれますね。

ここを右に曲がると、大日如来が座しておられます。

まぁもう、すばらしいの一言ですよね。

多宝塔に金ぴかの復元像があるのですが、箔のはげたこの仏像のすばらしさ。しかもガラス越しではなく、手の届きそうな距離で前から横から見放題。コレはなかなか参拝者を信用していないと無理ですよ。すばらしい。

「動の運慶、静の快慶」なんて俗に言いますが、確かに当たっているようで、当たっていないところもある。

快慶の仏像は、確かに時間が凍り付いたような静寂さを感じます。極限まで研ぎ澄まされた写実性がそう感じさせるのだと思います。と、同時に、凍り付いた時間は、ふとした瞬間に動き出しそうな、そんな意味での「静」なんですね。

逆に快慶の仏像は確かにものすごく躍動感。この大日如来も、横から眺めると今にも動き出しそうな感じがします。でも、その動き出す瞬間を、そこに留めている。「動中の静」でもある。アプローチは逆ですが、同じ頂きを目指して、極限の表現を追求しているのが感じられます。

さらにこの展示では、運慶の直筆、の模写を見ることができます。

「大仏師康慶実弟子運慶」という銘文は、ほぼ運慶の直筆と考えて間違いないらしいですが、「運」の字のしんにょうが美しかったですね。「動の運慶」だから、もっと豪快な字を書くのかと想像していましたが、繊細でした。アレは見た方がいいなぁ。

いやぁ、大満足でしたよ。すごいいいお寺。大人になってあらためて見たらほんとうに。もっとはやく来たらよかった!人生損した!

こんな素晴らしいお庭と、運慶の傑作と、数々の重文仏像に、国宝のお社まで見られて、拝観料400円?安ッ!安すぎ!500円とれる。いや、600円いっていいんじゃないですかね。京都ならとってるね!奥ゆかしいなぁ。奈良は。平等院鳳凰堂なんて計900円ですからね。いやまぁ満足できる900円なんですよ。でもここだって素晴らしいですよ。実に奈良っぽくていいなぁ。

帰りに、受付のご婦人に「自転車で来てもいいですか?」と聞くと、いいですよ!と快く答えて下さいました。

「あ、でも、あまりたくさんの自転車は・・・」

と付け加えられましたが、「いえ、多くて二人です」と答え、安心してもらいました。今度ネオプリ先生を絶対に連れてこようと思いましたね。

奥山登って、大柳生まわって、円成寺に立ち寄って、どっかでおいしいコーヒー。

うむ。極楽浄土なり!