長征一万光年
いつもお世話になってるお店の店長が、最近しきりに、
「ブルべやろうぜ!ブルべいいぞ!」
って誘ってくるんです。
ブルべってのは、決められたルートを通って、長距離を移動する、競技のような、イベントのようなものなんです。
でもレースじゃないんですね。
速さを競う競技じゃないんです。
制限時間はあるんです。チェックポイントもあるんです。でも、あとは自由。
機材もかなり自由。どこで休憩するかも仮眠をとるのも自由。いろんな困難に自力で対処して長距離を走り切ること自体が目的です。
なんたって距離が最低でも200.最大で1400kmなんですよ。
1400kmって、東京~鹿児島間ですよ。強烈ですよね。
そんな距離を移動するんですから、当然仮眠とか必要になってきます。もちろん一日では終わらないわけですから。
当然自転車だけでの移動が難しい場合もあるので、フェリーや渡船を使う場合もあります。
まぁ簡単に言えば自転車サバイバルですよね。
自分は、たいがい店長の誘いには乗っている方なんですが、コレは断っています。
絶対向いてない。
ロングライド好きなんだからいけるでしょ?って思われる方もいるかもしれません。
一日で300km走ったこともあるんやろ?200くらい余裕でしょ?って。
まぁ、200はいけるでしょう。ただ、普通に200走るのとブルべの200はまた違うとは思いますが。
でも、そこから、400→600→1200→・・・とか、そういうのはちょっと。そこから上を目指す気になれない。
率直に、向いてない、って思うんですよね。
サバイバル、向いてない。
予期せぬ事態に陥って、自分で解決してっていうのが。どうもそこは甘ちゃんといいますか。もやしっ子といいますか。
要するにおぼっちゃんだから。もう十分頑張ってるって、思ってる。自分を誉めてあげたい。
それならまだレースの方がマシとさえ思えます。これは勝てるとかいう意味ではなく、きちんと整備された状況で、よーいどんで人と競って勝ち負けがハッキリつく。(そして私の場合はキッチリ負ける。)すぐ終わる。
そういうののほうが、まだ「やりたい」と思える。
これは良い悪いの話ではなく、向き不向きの問題だと思うんですが。
まっさらな状態で何かに当たって、それを工夫して乗り越えるというのが苦手。生身の自分が弱すぎる。
事前に練習したい。練習好き。そう。ソレやな。練習が好きなんですよ。想定してない事態に出会いたくない。
一度マウンテンでみんなで山を下りたとき、Sくんというメンバーがマシントラブルに遭遇したんですよね。
そのときにSくんが
「この状況を乗り越えたら、俺カッコイイな、と思いました」
って言ったんですよ。
コレ、結構衝撃で。僕はこういう事態に陥ると、イライラするか、絶望するかなんですよね。
所詮は自分は整地された舗装路の上を歩くことしかできない人間なんだなと痛感しました。
まぁ、そんな人間なので、逆にこういう人たちと知り合って、少しずつ変わって行ける部分もあって、よかったなって思ってるんです。
だが、ブルべ、お前は別だ。
マウンテンのダウンヒルよりはマシだ。でもブルべもかなり向いてねぇなぁ。トンネルでもなるべく走りたくないもんな。
端的に言うと「馬力」がないんですよね。私。
好きなようにゆっくり走っていい、ならまぁ400kmはいける感覚あるんですけど、そこまでかなぁ。
「自転車は乗る過程を楽しむもの」ってとこが、だいぶ分かってきたとは思うんですけど、それにしたってひどいと思いますよ。ブルべ。
で、店長昨日からブルべ行ってたんです。
600km。
スタートどこだと思います?
国東ですよ?
え?どこ?わからない?
大分県です!
大分に現地集合して、神戸までひたすら自転車ですよ。見ます?経路。
逃走犯ですか?
逃走犯だってそこまでやらねぇよ。
っていうか、「600km自転車で移動しろ」っていう刑罰として成立する案件ですよね。怖いわー。
で、店長今日無事ゴール。
店長のサイコンに「34時間」って表示されてるんです。人間、34時間も同じことできますか?無理無理無理!
「俺、34時間も自転車乗れないわ・・・」ってメッセージ送ったら、
「2時間フェリーだから、32時間だよ」
って返事するんですよ。
アホですよね。
前から思ってたんですけど、この人やっぱりアホですよ。
コレって、「3升もよく日本酒飲むよね?」って言ったら「いや、3合くらいは他の奴が飲んだよ」みたいな話ですよ。そういう問題じゃねぇよ。
コレは勝ちたい!とか意地とか、そういうのじゃないと思うんですよね。
単純に自転車に乗るのが好きで好きでしょうがない人、なんだと思います。
だってまわりが立派な自転車で集結してるのに、10万のフレームにコンポ105できてるんですもん。この人車輪ついてたらなんでもいいんですよ。大食いとかと同じカテゴリなんだろうなぁ。
何より驚いたのが、大分に集合した時点で、ゴール地点から自走でスタート地点にやってきた猛者がいたという話。
これから600㎞走る前に600㎞自習してきたわけですわ。店長の倍おかしいってことですよね。
いやーなんか世の中はドラゴンボールみたいに次から次へとすんげぇ奴らが現われるんだなぁと毎回ビックリさせられます。
お店のメンバーがビワイチ2周して「ビワニ」って言ったときのゴワゴワ感と同じものを、もっとでかいスケールで再現されてしまいました。こういうのを聞くだに、
「俺はブルべは無理」
ってすごく思っちゃいます。寝たいもん。休みたいもん!夜通し走りたくない!
もうちょっと、ゆっくりやりたいですね。
寝たいときに寝て。おいしいもん食べて。綺麗な景色を見て。じっくり休みながら何日も自転車で。
そう考えると、自分の理想はわりと、去年世の中を騒がせた彼なのでは、と真剣に考える私でした・・・。
なにはともあれ、店長、おつかっれっす!
自転車屋さんは数あれど、速い店長さんもいっぱいいると思うけど、こんなに自転車好きな店長はそうそういない気がします。