伊勢志摩弁のワンダー
私の奥さんは志摩出身です。
伊勢志摩の志摩。ですが、伊勢と志摩をひっくるめるには無理があるほど、遠いです。伊勢から志摩へは車で1時間くらいかかります。ほぼ東大阪と奈良の関係です。
観光客でにぎわう伊勢から阪奈道路みたいな山を越えた先の志摩の海っぺりで生まれ育った奥さんは、やはり一般の関西人とは違う独特な感覚をもっており、最初は戸惑いました。
こっちに来て第一声は
「奈良、大都会やん!」
恥ずかしいから、大阪でぜったい言わんといてほしいと言いました。
スーパーでキョロキョロ鮮魚売り場を見渡し、
「こっちには真珠の貝柱ないの?」
食べたことないですけど、めちゃくちゃ興味そそるんスけどッ!
そもそも、はじめて会ったときに、隣の県なのにイントネーションが全然違うので、
「言葉、全然ちがうねー」
と言ったところ、
「うちら、関西弁やにー」
と答え、このメタ的な返答にどう返せば面白いのか数秒悩み、断念しました。
そう。三重でも南の方は、明らかに独自の言語体系を構成しています。
一番困るのは、最近ちょっと有名になりつつある、「あさっての翌日問題」です。
明日→明後日→・・・の次は何て言いますか?
「しあさって」ですよね?
違うのです。南三重地方では、明日→明後日→・・・
「ささって」
何刺さってんねん。
明日→明後日→ささって→しあさって
奥さん曰く、ささって=3、しあさって=4。つまり「三さって」、「四あさって」だという理論。
もっともらしい気もしますが、それならあさっての「あ」は2ということになり、「四あさって」がおかしくなる。その理論なら「しさって」のはず。
調べてみると、明明後日を意味する「しあさって」は「次明後日」と書く模様。「次第」の「し」ですね。明後日の次の日という意味。
「ささって」を使う地方はごく限られた南三重。奥さんの伊勢・志摩地方がドンピシャ。
ウィキペディアでも「三重弁」の項目が作られるほど、やはり特徴的らしい。
北伊賀 | 南伊賀 | 北伊勢 | 中伊勢 | 志摩・南伊勢 | 北牟婁 | 南牟婁 | |
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アクセント | 京阪式 | 京阪式に似る | 京阪式の変種 内輪東京式 |
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断定の助動詞 | や | や、じゃ | |||||
進行相 | …てる | …とる | …よる | …やる …やーる |
|||
完了相 | …てる | …とる | …たる …たーる |
||||
過去否定
(書かなかった) |
書かへんだ | 書かなんだ | 書かなんだ | 書かんだ | 書かなんだ 書かんかった 書かざった |
書かなんだ | |
理由の 接続助詞 |
で、もんで、 さかい |
で、もんで、 (さかい) |
で、もんで、 よって |
で、もんで、 さかい、さか、 よって |
こんな表まで作られていますが、バッチリ志摩南伊勢の項目にスッポリ入る奥さんの言語体系ッ!
先日「三重は関西なのか」みたいな問題が扱われているのを見ましたが、伊賀地方はバッチリ関西文化圏、それ以外は大ざっぱに東海文化圏、その中でも伊勢志摩は独自みたいです。
なぜお伊勢参りで古来より全国から人が集まる伊勢地方にこんな方言が残るのか、よくわかりませんが、聞いていると昔話を聞いているような感覚があり、不思議な語感があります。
グーグルで「伊勢弁」を検索すると、候補に「伊勢弁 かわいい」が出てきますが、関西弁の中ではかなりやわらかい感覚がある不思議な言葉であります。
釣り人以外にはほとんど需要がない志摩ですが、実際パルケエスパーニャ以外はパチンコ屋しかないさびしいところ。伊勢から足を伸ばす理由を見つけるのが相当キツイんスけど、なんとかならんかいなぁ。