サザエさん坊主
あれは夏の終わりの日。
私は仕事でほとんど自転車に乗れない日々にイライラしながら、毎日過ごしていました。
ようやく時間が空いた昼前の時間、急いで自転車に飛び乗り、「最近乗ってないし、峠とか無理」と、信楽方面へ。
この日の気温は35℃。8月もあと残すところ僅かだというのに、猛烈な暑さでした。
キレも何もない自分の身体に鞭を打ち必死で走るも、やはり和束の川沿いの空気は涼しくて気持ちよく、久しぶりの自転車を満喫して信楽到着。さて、何か食べるか、と。
朝宮にいつもいつも人が並んでいて、結構待たねば食べられないお蕎麦屋さんがあります。
以前もお邪魔した、「黒田園」さんです。
ところがこの日はド平日。25日も過ぎて夏休みも一部終了しており、昼どきだというのに外で並んでいる人はゼロ!やった!
喜んで入店すると、今日はいつも埋まっている座敷が空いています。
「テーブルと座敷、どちらがいいですか?」と言われたので、迷わず「座敷で!」と答えます。
古民家の座敷っていいですよね。
汗びっしょりのレーパン野郎が座敷に上がるのは恐縮でしたが、滅多にないからスイマセン、って感じで着席。やはり落ち着きます。日本人は座敷やなぁ!と昭和生まれ感満載でくつろいでから、おそばをオーダー。さっぱりおろしそばにしよう!
さてさて、仕事の電話とかかかってないかなぁ~?とスマホとお金が入ったジプロックを背中のポケットから取り出したところ・・・
コレでした。
ええええええええ???アレ?スマホは?お金は?
ない!!!
やばい!
財布、忘れた!
なにやってんだよ!いい大人が財布をもたずにおでかけして蕎麦オーダーって!
おまえはサザエさんかッ!
愉快じゃすまねぇよ。リンゴの中でノリノリで踊ってる場合じゃねぇよ。「ん~あっんっんっ!」って喉つめてる場合じゃねえよ!
いい大人が財布もなしででかけて、おそばオーダーって、コレ、絶体絶命やん!
慌てて店員さんに事情を説明し、「オーダー止めてください!帰ります!すいません!」と出ていこうとしたところ、中からそば粉で真っ白になったやさしげな店主さんが出てこられ、
「もう作ってますんで、ゆっくり食べていってください。お代はまた次来られたときで。」
とおっしゃってくださいました。
「そんなわけには」と思いつつも、電話もないし、家族にここまで来てもらうにも数時間かかります。夕方用事があることもあり、
「まことにすいません」
とおそばを頂くことに。この日ほど大根おろしが身に染みる日はなく。
おそばを食べて急いで席を立つと、
「蕎麦湯も上がってください~」
いや、無銭飲食した上に、座敷でゆったり蕎麦湯はさすがに無理!神経太すぎる!そんな大物になりたい!
「連絡先を書きます」と言うと、「そんなん要りません」と言われましたが、これはさすがに書かないとと固辞して書かせていただき、
「近日お代をもって伺います」と頭を下げると、御主人
「一か月後でも、二か月後でも、何かのご都合があるときに」
とニコッ。
こっちが高僧で私は見逃してもらったコソ泥のような気分で頭を下げて、出ていこうとすると、
「道中暑いのにお金もないと、困るでしょう。これでも飲んでください。」
と、ペットボトルに詰めていただいた冷茶を!
これはいつもお店で出していただくお茶で、ここ朝宮のほうじ茶!
トホホ・・・。お世話になるにもほどがある・・・。
お茶を空のドリンク入れに移し替え、慌てて出発。電話もないので急いで帰ります。
5kmほど進んだところでとんでもないことに気づきます。
あ、さっきのペットボトル、慌てすぎて、お店のよこに置いて、あとで自販機の缶入れに入れようと思ってそのまま!
なるべく早く帰りたい、だが、このまま帰ったら「タダ飯食ってお茶までもらった上、ゴミを捨てていった奴」ということに。ソレ、猛々しいやつ!
慌てて引き返し、ペットボトルをゴミ箱に捨てて、安心して帰ります。
そこから必死で帰って用事には間に合いました。ふう、疲れた。
すぐにお代を支払いにいこうと思っていましたが、そこから立て続けに色々あり、「お言葉に甘えたらいかん」と思いながら、新学期も始まり、お店の営業時間との兼ね合いもあり、なかなか行けず。いかんいかんと思いながら、ようやく本日、お店にお邪魔してお礼をいい、お代金をお渡しできました。一応手土産のようなものを持参すると何度もお断りになられましたが、なんとか受け取っていただき、お返しにと、今度は朝宮茶の最高級の煎茶を淹れてくださいました。
「ワインのようにお飲みください」
とのことですが、ワインもようわからん上に、そんな上等なお茶飲んだこともないので、たいへん緊張&恐縮して頂きました。お抹茶より濃厚なお茶の香りがすごかったです。ごちそうさまでした。
そんなこんなで、財布も持たずにそばを食べたおっさんに恐縮至極のご対応をして下さり、恐縮に恐縮を重ねて、ちっこくなって帰って行ったお坊さんでした。参った!
サイクリストのみんな、財布はちゃんと持とう!